東アジア女性行動計画    次の行動計画はフォーラムの5つのワークショップでの討論をまとめたもので、宣言と ともに参加者全員によって採択されました。 開発と女性  東アジアで強力に押し進められてきた市場経済化=経済成長の追求が、環境を破壊しか つ女性を安価な労働力として市場に送り込み、さらには性の商品化に拍車をかけているこ とを私たちは確認した。  上からの工業化政策が農業や漁業を破壊し、多国籍企業による経済支配と政府開発援助 (ODA)の下で推進される海外投資は「貧困の女性化」をもたらすものでしかない。私たちは、 循環型経済システムの確立を目指し、特に生物多様性を破壊せず、女性を犠牲にしない発 展のあり方をもとめる。 1 女性と労働 ★東アジアにおける外国企業が女性労働者に与えている影響について、資本輸出国と受入 れ国の双方の女性団体が調査し、企業に対する共通の規制基準を政府に作らせる。  ★外国人労働者にとって好ましくない出入国管理法の改善に取り組み、外国人女性労働者、 移住女性労働者の人権確立に努力し、国内外での支援組織やシェルターの設立を進める。 ★各国、地域の女性労働者が積極的に労働運動に参加して労働運動を強め、労働組合運動 に政府や企業を介入させず、東アジアの女性労働者の連帯を強化する。 ★女性への職業訓練を積極的に行い、雇用の安定と拡大をはかる。 ★同一価値労働・同一賃金を実現させる。 ★労働災害、職業病に対する予防措置・治療・補償を拡充する。 ★家事労働やこどもの養育を男女が平等に負担し、育児休暇の確立と延長を要求する。 ★育児施設の充実など、女性が働き続けられる条件を女性たちの手で拡充するとともに政 府に要求していく。 ★それぞれの国の労働政策について、実効性のある男女雇用平等法、労働基準法の改正、 母性保護の拡充、育児・老人看護休暇、労働時間の短縮など、男女とも人間らしく働ける 社会的条件の整備を政府に要求していく。 2 農漁村女性 ★東アジア全域での工業地優先政策による農漁業破壊を阻止し、貧しい地域の農民が自給 し、生活を改善できるよう協力し、農耕、その他の技術を習得できるように訓練するため の女性ネットワークを形成する。 ★ガット・ウルグアイラウンドによる農産物自由化に反対する。 ★農漁村女性がエコロジカルな農業を推進するよう援助し、農業・漁業の政策決定に参加 する道を広げる。 農漁村女性のクレジット、土地、あるいは年金・健康保険などの社会福祉への権利を平等 に保障する。 ★農漁村に残る伝統的な女性差別的慣習をなくす。 ★農産物および農業技術に関する情報、女性に有害な農薬に関する情報を流布する。 3 環境 ★熱帯雨林、酸性雨、海洋汚染などの国境を越えた環境破壊に立ち向かうため、東アジア の女性たちは情報交換、経験交流など共同行動をとる。 ★女性は環境保護ー特に女性自身と未来世代のリプロダクティブライツ・ヘルスーに積極 的に取り組み、環境保護についての監視を強化し、環境破壊反対運動を組織し、環境を破 壊する原子力発電所建設を阻止する。 ★農村女性はエコロジカルな農業をめざし、環境保護に関わる政策決定を地域住民の手に とりもどす。 4 ODA・企業進出・債務 ★政府開発援助(ODA)について東アジアの市民とくに女性たちが地域、国内国際的に共同 で監視し、女性の視点から援助を見直し、受入れ国の女性の自立を助ける計画を促進する。 そのためにODA計画に関するすべての情報を公開させる。 ★外国企業は、雇用している女性労働者の権利を守るよう進出先および自国の法律を守る べきである。 ★女性労働者の保護、環境破壊の防止などに関する国基準を作成させるよう、各国の政府 に要求していく。 ★東アジア地域の女性たちが共同で、ODA、債務、外国投資、出稼ぎが女性に与える影響を 監視し、調査する。 ★女性の生活に否定的な影響を与える多国籍企業を監視する。 ★女性の生活に対する市場経済の悪影響について監視を行なう。 女性と政治  東アジア全体でまだまだ女性の政治参加は遅れている。それはこの地域に伝統的な性別 役割分担が根強く残っているためであり、私たち女性はまず、男性優位の社会意識や制度 を変革、改正していくことに積極的に取り組む必要がある。 1)中央・地方での女性の政治参加 東アジア地域の女性の政治参加を促進するため、次のような行動をとる。 ★公教育ならびにあらゆるレベルの教育の場で女性の教育を拡充し、民主社会の主権者あ るいは、政治への参画者としての自覚を促す。 ★選挙制度の改正、投票に付したクォータ制度の採用など、女性が政治に参加しやすい仕 組みを求め、作っていく。 ★女性のネットワークで、候補者を発掘し選び支援して自分たちの政治家として送り出し、 またその政治家を通し政策決定に参加していく。 ★女性の地位向上のため、東アジア地域の女性政治家同志の意見や経験の交換をより多く 行い、連帯を高める。 ★女性候補者や政治家の訓練を行い、選挙技術、政策立案能力、交渉力を強める。 ★女性の地位向上のため、女性問題を扱う全国的な機構がない国はつくる。 2)市民運動 ★環境運動、消費者運動、平和運動における情報交換や連帯を促進する。 ★市民運動にかかわる女性をふやし、意志決定過程へのより積極的な参加を促進する。 ★地方自治への女性のイニシアティブを促進する。 ★国あるいは地方レベルの立法、行政の政策への政策提言を積極的に行なう。 ★ILO条約の156号(家事労働に関する機会と待遇における男女平等について)を批准す るような市民運動を展開する。 ★エコロジーシステムの運営や環境破壊をくいとめるための担い手としての女性の役割を 認知する。 ★核実験をやめ、東アジアを非核地帯として宣言する。 ★従軍慰安婦問題について日本政府が謝罪をするよう東アジア地域で運動を展開する。 ★一般の人々の間に女性の権利についての理解をひろめる。 (10)女性団体が女性に関する進歩的な考え方を広く宣伝できるようにする。 (11)社会発展において、女性に機会を与えるよう政府に要求する。 (12)居住や公共交通サービスを開発する際に、女性の必要性を考慮に入れ、女性中心の家 族あるいは母子家庭を優先するよう政府に要求する。 (13)社会発展に女性が参加できる社会サービスの確立に貢献できるよう女性組織やNGO を組織する。                3)女性と法律 ★国連の女性の条約について  ★すべての国が女性差別撤廃条約を批准すること。  ★留保付きで批准した国は留保を撤回すること。  ★女性差別撤廃条約の実効性を確実なものにするため、個人通報制度を導入する選択議 定書を採択するよう働きかける。  ★条約を実行あるものとすべく、内容をすべてに人に周知させるよう義務教育のカリキ   ュラムの中で条約に関する教育を行うこと。 ★女性の人権をすべての分野で確立するために、雇用、家族、健康などに関する現在の法 制度を見直し、草の根の女性たちと女性法律家及び立法関係者が協力して、新たな立法活 動に積極的に取り組む。 ★司法、警察などすべての法執行関係者及び法律家に男女平等教育を徹底する。  ★犯罪の取り調べ中における性暴力をなくすために、法執行関係者及び法律家の中の女   性の役割を高めること ★草の根の女性たちと司法、立法関係者が協力して、女性の権利侵害のついて調査・告発 活動をすること ★女性法律家が国際的規模で定期的に会合を持ち、女性の人権を確立すための方法と障害 の克服について、研究・討議を継続的に行うこと ★男女平等のための法律扶助制度の設立を促進し、非識字の女性並びに性暴力に被害者で ある女性に対する法的援助をおこなうこと ★家族における女性の権利を保障するために、家庭裁判所のない国は、それを設置するこ と ★法律を学ぶ女性のために、教育機関におけるアファーマティブ・アクションを設けるこ と ★女性移住労働者の権利と利益を守るための法制度を確立すること 6 女性の人権  性暴力、人身売買、売買春、リプロダクティブ・ヘルス・ライツなど女性の人権問題は、 今日の世界が取り組むべき最重要課題のひとつとなっている。移住労働者の受け入れ国が 増えつつある東アジア地域においては、女性の人権確立のための努力が求められている。 さらに社会的少数集団の女性の人権侵害の現実も見逃すことはできない。私たちは文化的 多様性を認めあう女性の視点に立って行動する。 1)女性への暴力  女性への暴力は、人権侵害である。女性への暴力とは、障害をもつ女性、マイノリティ 女性、外国人女性労働者、国際結婚の女性を含むすべての女性に対する、すべての形態の 暴力をさす。 ★国連の「女性への暴力に関するあらゆる国際条約・宣言」の批准と完全な実施、広報、 「女性への暴力特別報告」の活動に必要な支援を政府に求める。 ★既存の法律を改正し、あるいは新しい法律をつくって、あらゆる形態の女性への暴力を なくすような法体制を整備し、かつその法律の執行にあたる有効な政府機関をつくる。 ★警察、司法機関における女性を増やす。 ★NGOと政府は女性への暴力に関する実態、原因、影響について調査する。このような調 査は女性の視点が反映されるべきである。 ★東アジア地域の文化的・社会的規範としての儒教的家父長制と、女性への暴力との関連 について実態を分析し経験を交流する。 ★暴力を受けた女性に対する緊急援助を実施し、また長期的、総合的プログラムを推進す る。 ★女性自身が自分自身をエンパワーし自立するようなプログラムを実施するよう政府機関 に働きかける。 ★女性への暴力に関する活動を行っている民間団体への政府の財政的支援の確立、及び民 間と政府の協力をすすめる。 ★成人、こどもに対して女性の暴力に関する意識を高め、男女平等をすすめるための機教 育を行なうことができるよう政府に働きかける。 (10)女性をステレオタイプに描いたり、女性を商品化するようなマス・メディアの描きか たを監視するようなシステムをつくる。 (11)女性への暴力に関する東アジア地域のNGOのネットワークをつくる。 2) 人身売買と売買春 ★東アジア各国、各地域の人身売買・売買春をめぐる実態を伝えあい、具体的問題に対し て連携協力する。人身売買および性的搾取の撤廃に関する現行の条約を批准し新しい条約 をつくる。 ★国内外の人身売買シンジケートを政府が処罰するようを求める。 ★被害を受けた女性の権利を守り、エンパワーするよう法的支援をする。各国政府は女性 の人権の視点に立ち、現在の政策を見直すとともに、民間への助成を増やす。 ★売買春を容認する社会の意識構造を変える方策を考え、男性の意識変革活動を応援する。 ★女性の人身売買が既存の経済構造と深く関連していることを認識し、女性の経済的自立 を促進する政策を強化する。 3) 家族と高齢化社会 ★儒教的家父長制にもとずいた伝統的家族観を克服し、女性の人権が保障されるような多 様な家族(母子家庭、高齢者家庭、単身、同性愛カップルなど)の在り方をめざし、法律 制度および意識の改革をすすめる。 ★税金や社会福祉は、個人単位で施行されるべきである。社会政策によって特定の家族形 態が推進されるべきではない。 ★家事・育児・介護的役割を女性のみの分担とはさせず、性別役割分業の考えや慣習を打 破する。 ★各国が子どもの権利条約を批准し、実効あるものとするよう働きかける。すべての子ど もに平等な権利を保障し、子どもの人権が確立するように社会の制度・意識を改革してい く。 ★高齢者、とくに女性の人権が尊重されるよう公的な福祉を保障する。そのためのNGOの 活動を拡充する。 4) 性と生殖の権利 ★東アジアの女性たちは、リプロダクティブライツを自己決定出来るよう情報交換をすす め、協力しあう。 ★堕胎罪を廃止し、リプロダクティブ・ヘルス/ライツをすべての女性に保障する新しい 法律を制定する。 ★女性の性とからだが商品化され売買されることを禁止する法律を制定する。 ★障害を持つ女性を差別する優性思想をなくし、障害を持つ女性の人権と生活権を保障す る。 ★基礎的でかつ質の高いヘルスケアサービスがすべての女性、子どもに提供される体制を あらゆる国、地域で確立する。 ★両性の対等なパートナーシップを確立するために人権教育としての性教育とエイズ教育 を実施する。 ★望まない妊娠を避けるために、女性自身が避妊の方法を選択出来るように、男女ともに 避妊教育と避妊の手段を提供する。 ?★生殖技術は誰のための、誰によるものかを問い直す。 ?★リプロダクティブ・ライツ/ヘルスを保障するために、環境破壊をやめさせる。 5)マイノリティ女性 ★差別撤廃のため国際人権条約を批准し、関連国内法を整備する。 ★多様な性的嗜好に対する会的差別や制裁が存在を認め、そのような人権侵害をなくし、 レズビアンやゲイなどの存在を認める。女性が自分の性(セクシュアリティ)をタブー視 せずに肯定し選択できるような女性の視点に立った性教育の普及する。 ★マイノリティーが教育、特に多文化教育を受ける権利を促進すること。差別をなくし、 共生をめざす人権教育プログラムを実施する。 ★マイノリティに関する十分な実態調査を行い、そのなかに女性に関する質問項目をいれ る。 ★マイノリティ女性の宗教的、文化的、伝統的習慣を尊重すること。 ★差別を助長するようなメディアのあり方を監視し、差別をなくすために積極的に貢献す るようメディアが変わるよう促進する。 ★マイノリティ女性と「多数派」女性の連帯とネットワークの促進する。 ★雇用と教育における差別をなくすためのアファーマティブ・アクションを行なう。 女性と文化   東アジアは儒教、家父長制、伝統的家族観に強く影響されている。そしてこの地域は急速 な経済成長と工業化を成就した結果、物質主義、商業主義が教育・マスメディア・宗教な どあらゆる文化の局面に浸透している。私たち東アジアの女性はエンパワーするためのオ ルタナティブな教育、メディア、宗教を創りだすために以下の行動を提起する。 ★教育、マスメディア、宗教の政策決定過程への男女平等な参画を制度化する。 ★女性の非識字者をなくし、女性の専門的、非伝統的分野での学習、研究を奨励する。 ★ 政府にあらゆる世代の男女に男女平等教育を推進するよう働きかける。 ★大学のみならず中等教育および生涯教育での女性学を推進する。 ★女性のリプロダクティブ・ライツを保障するための性教育を推進する。 伝統的性別役割を変えるために、あらゆる形態の性差別をなくすための監視委員会を設置 する。 ★マスメディアの政策決定に女性が参画できるためのアファーマティブ・アクションを採 用する。 ★文化における商業主義、物質主義を排し、男女平等社会を創造する。 ★女性が人生の自己決定権を行使できるよう、女性たちを奨励する教育を行う。 (10)女性をエンパワーし、女性の声が聞かれるようなオルタナティブな教育・メディア・ 宗教・芸術をつくる。 女性と戦争・平和 1)「従軍慰安婦」などの戦争責任問題 ★日本政府は、日本のアジア太平洋侵略戦争において皇軍のために考案された「従軍慰安 婦」制度すなわち旧日本軍による性奴隷制にかかわるすべての行動を明らかにし、それを 認めること。 ★日本政府は、国家による性奴隷制度の犠牲者一人一人への正式な謝罪を行い、個人への 補償を行うこと。 ★日本政府は、性奴隷制の犠牲者を悼む碑を建て、この戦争犯罪について若い世代に歴史 教育を徹底する。 ★日本政府は、この戦争犯罪の責任者を法によって裁くこと。 ★日本政府は、国連人権委員会小委員会、国際法律委員会等の勧告を重んずること。 ★日本政府は、オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所の仲裁を受け入れ、国際法の下に 性奴隷制に関するすべての事実を明確にすること。 ★侵略戦争に対する法的責任の履行なき日本の国連安全保障理事会の常任理事国入りに反 対する。私たちは、東アジアおよび世界の女性に、韓国挺身隊問題対策協議会が提案した 日本政府の国連安全保障理事会の常任理事国入りに反対する署名活動を呼びかける。 ★性奴隷制の犠牲者を出した日本以外の国および地域は、被害の実態を調査し、犠牲者に 必要な心理的、身体的、経済的支援を行うこと。 ★日本政府は、性奴隷制の犠牲者が要求する補償の代わりに「見舞い金」と称するものを 民間から集める計画をただちに中止すること。このような計画は、犠牲者を慈善の対象と して扱うだけでなく、日本が犯した罪の法的責任を認めていない証拠だからである。 (10)東アジア女性フォーラム行動計画は、「従軍慰安婦」問題に国際社会全体が目を向ける ように、国際的なメディアに意見広告を出す。 2) 平和を創る(核・基地・PKO) ★平和教育・人権教育を徹底し、世界のどの国、どの地域からもすべての差別を撤廃する。 ★戦争の大きな原因の一つである経済的搾取や、新植民地主義に反対する。 ★日本の植民地支配、さらに戦後の冷戦体制の中で、東アジアで唯一分断された朝鮮半島 の非核化・平和統一を支持する。 ★IAEAの不平等性を改め、平等な協定にし、アジアからの、さらに世界からのすべての核 の撤廃を目指す。 ★国家間の軍事同盟を撤廃し、アジアから米軍基地の廃絶をもとめる。米軍基地に不随す る基地犯罪・女性に対する性暴力を根絶する。 ★日本など東アジアの国々の軍事大国化・武器輸出・海外派兵を阻止し、軍縮を強力に推 進し、アジアを非核・非武装地帯とする。 ★半世紀にわたる国連における大国支配構造を打破し、国連加盟国すべての平等な参加を 運営を要求する。大国支配の下で、国民の総意を問うこともなく、日本が国連安全保障理 事会の常任理事国になることに反対する。 ★東アジアの女性は積極的に平和運動をおこない、すべての紛争を話し合いで解決させる ために行動する。